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次の日、勤めている会社の店舗で、彼女は新発売の色鉛筆を注文した。康司との交際中の時は我慢していたスケッチを再開させたかった。
乾いて涙も出ない自分でも、絵を描けば変わるかもしれない。胸の奥につまった石が涙となって流れるかもしれない。辛いはずなのに、彼女は泣けなかった。
なのに、今、彼女は素直に泣いていた。さっき会ったばかりの男性の面影が心に揺れた時、なぜか、今まで止まっていた涙が溢れるように流れてきた。
小さな嗚咽を零しながら、かすみは長い時間泣いていた……
泣いても状況は変わらないけれど心は軽くなる。かすみは久しぶりに、気持ちのいい眠りの中にあった。
名前も知らない。年齢も勤め先も……でも、かすみを確かに救ってくれた男性の面影を抱いて、穏やかな眠りの中に彼女はいた。
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