あわせ鬼

1/8
38人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ

あわせ鬼

「ねえねえ、こういうのって何だかワクワクするよね」  コンパスで方位を調べながら、朱音(あかね)が悪戯じみた視線を送ってくる。 「あんまり気乗りしないけど……」  溜め息まじりに、私は朱音の指示する場所に鏡を置く。  放課後の教室に残っているのは、私と朱音、そして暇つぶしがてらと誘われた岡安智樹(ともき)だけだった。  私たちが教室の中央に机を寄せるのを窓際で見ていた岡安に、朱音が口を尖らせて言う。 「あんたも手伝いなさいよ」 「やだよ、俺は手出さない。何かあったらマズいじゃん」 「マズいって何よ?」 「ほら、学校でこういうオカルティックなことするのって禁止だろ。降霊術とかマジナイの(たぐい)狐狗狸(こっくり)さんとか言うんだっけ?」 「全然違うわよ。霊媒師じゃあるまいし」  憮然とした表情で、朱音は机を円形になるように並べ始める。 「似たようなもんだろ。いや、余計に(たち)が悪いな、人喰いの鬼を引っ張り出そうってんだから」  含み笑いしながら、岡安は椅子の上に胡座(あぐら)をかいて座り直す。 「そういう信仰心のない軽薄な奴が、真っ先に喰われるのよ」  睨みつける朱音に、岡安は「そりゃ怖ぇな」と言って肩をすくめる。  傾きかけた夕陽とともに窓の外が灰色に変わっていく中、私と朱音は準備を続けた。教室の中央に円を描くように机を並べ、その両端に六十センチほどの鏡を向かい合わせになるように立て掛ける。  合わせ鏡の奥に鬼の姿が見える、などという荒唐無稽な噂が広がったのは、この数ヶ月の間のことだ。鬼といっても、その姿は人間の女に化けているとか、牙の生えた口で人を喰い千切るとか、菖蒲(しょうぶ)の葉の匂いが苦手だとか、まことしやかな尾ひれの付いた話ばかりが生徒たちの間で語られていた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!