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制服の女子高生。見覚えのあるマフラー。
だけど雰囲気が違った。最後に見た紗江じゃない。
あれは一年前、朋子先輩に無邪気にまとわりついていたころの紗江。
紗江がぼくに顔をむける。驚いたような嬉しそうな顔つきになり。
ぼくの頭は真っ白になる。
音が消えた。身体が震える。紗江の顔しか見えなくなる。
カフェで何があったのかとか。事件や事故にまきこまれていたのかとか。
急にいなくなるなんてとか。返事もしないなんてとか。
だけどそれは多分ぼくのせいで。いやもう絶対ぼくのせいで。
紗江とつきあっているのに、ぼくは朋子先輩のことばっかりで。
ならぼくはどうすればいいのかとか。どうすべきなのかとか──。
そういうことが、どうでもよくなる。
手をのばす。力いっぱい紗江の腕を引く。涙声になる。
「無事で、よかった」
愛とか、恋とか。よくわからない。だけど、これだけはいえる。
君がいるだけでこんなに世界は違う。
いるだけでよかったんだ。
だから。どうか。もう。どこにも。
言葉にならない思いが胸をしめつけ、ぼくは彼女を抱きしめた。
(了)
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