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きまってブランチはオートミールが食べたい言う。いちおうストックはしてあるのだけれど、彼が泊まりに来るのも気が向いた時だけで、オートミールが鳥の餌のようで食べられない私はキッチンの戸棚の一番奥にしまっている。お歳暮にいただいた老舗のそばや、フィリピン産のドライマンゴー、缶入りのミックスナッツやいつ開けたわからない海苔の袋を掻き分けるとオートミールにたどり着いた。
やっとの事で取り出した時、カタンと音を立てて電子ケトルのスイッチレバーが上がった。お湯が沸いた。
赤いコーヒーサーバーにペーパーフィルターをのせ、ガラスのコーヒーキャニスターを開けて、すでに粉末にされたコーヒー豆を三杯すくう。コーヒー豆は挽きたてが美味しいのだけれど、セックスの怠さが残る体であえて豆をひこうとは思えなかった。
電子ケトルからコーヒー豆に湯を垂らす。しゅわしゅわと細かい泡を立てながらコーヒー豆が膨らみペーパーフィルターのふちが染みてくる。
「おはよう」
「あら、はやいのね。もう少し待っていてくれる?」
湯を注ぎ終わるとペーパーフィルターごとコーヒー豆を捨て、冷蔵庫に入っていたヨーグルトをスプーンですくい小鉢にうつし蜂蜜を垂らす。
「悪いが、すぐに行かなければならない」
「食事は?」
「すまない」
コーヒーをカップにうつす間に服を身につけた彼は、昨日の朝のような乱れの無いスーツ姿で目の前に立っている。
一口だけコーヒーに口をつけ「愛してるよ」と言った。
続けてキスをしようとしてきたので、顔を逸らして避けると困った顔をして部屋から出て行った。
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