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彼らが、時空を越える機能を持った”宇宙船”を操れるのならば、おなじ方法で”平行宇宙”を移動することが出来るかもしれないではないか。その程度のことは、オカルト評論家風情でも話すことは出来るが、そこまでだ。
丈以外、裏づけも何もない都市伝説をまことしやかに吹聴してオカルト評論家でございますという連中はあまりに多い。その中でも、丈はその美貌以上に堅実な研究姿勢をそれなりに評価されている。だからこそ、その、たとい”なけなし”の、であろうと、信用を大事にしたい丈だったのである。
”それにしてもなあ・・”である。
気になるのだ。まさか、何かあるとも思えないのだが。気になりだすときりがないという、いわば丈の好奇心のツボに嵌るということは、あったわけで。それは、東邸にある”蔵”だ。
本当に古い蔵なのだ。あの漫画にあるとおり、江戸時代からの武家屋敷なのだ。こじんまりとしているが、蔵だけはたしかに在る。そこには確かに二階もあるのだ。
暇な時間に散歩ついでに、仕事場から実家に戻る。
”ふぁおおおお~”子牛ほど在る巨体のセントバーナード犬”フロイ”が大あくびをする。とても番犬の役に立っているとは思わないが、まあ、何も知らない人間はその巨体を見ただけで回れ右する効果はあるだろう。
「よう、フロイ、姉さんは居るのかい?」
ふぉええええ
「そうか、今は居ないのか。ちょっと邪魔するぜ」
ぶおお、ぶっ、挨拶代わりにフロイは屁をひった。
年齢不詳だが、老犬のようだ。子犬のころから東家にいたわけではない。縁あって姪の美惠子が連れてきた野良犬。最初の一時期は丈の部屋で飼ったこともあるが、すぐに東家の番犬に収まった。
「いいなあ、おまえは気楽で。確か、蔵の鍵は・・」
特段に鑑定団に見てもらわねばならないようなお宝もないので、蔵の錠前は、戦前からの南京錠のままであった。
じゃらじゃら。
針金のわっかにはめられた鍵を鳴らしながら、丈は母屋を出る。
じゃき~ん・・
大きな音がした。
がららら・・
分厚い重い木の扉を開く。
「いったい、何年開けなかったっけ。十年、二十年・・そういえば、親父が死んでからかもなあ」
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