冒険

4/5
前へ
/15ページ
次へ
 倒れていた少年は中学生くらいの見た目で、大きめのサイズの上着を着てジーンズのズボンを穿き、金髪に染めた頭には野球帽のような黒い帽子のつばの部分を平らにしたものを被っていた。この季節にしては暑いのではないかという印象を受ける服装だ。懐中電灯に照らされた顔色は悪くはなさそうで、肩がゆっくり微妙に上下している。どうやら息はしているようだ。  「生きてる・・・よな。」と俺は自分にも言い聞かせるように言う。  「ああ、たぶん・・・。」と雅人が答える。  俺は少年の横にかがんで肩を軽くたたきながら声をかける。しかし反応はない。  「どうしよう、とりあえず救急車かな。」と智一が少し困った顔で俺に聞いてきた。  「いや、ここで発見となると俺たちの不法侵入がばれて面倒だから、道路から見えるところまで運ぼう。」と雅人が提案した。  雅人の提案は無言で俺たちに受け入れられ、3人で少年を抱えて道路のほうまで運び、救急車を呼んだ。  智一が救急車を呼ぶために電話を終えて1〜2分経った頃、歩道からすぐ見える位置に寝かされた少年がうう、と声を発した。  「大丈夫?」俺は少年に声をかける。  眠そうに眼をこすりながら少年は体を起こすと、周りを見渡した。  「あれ、俺、どうしちゃったんだ。」と少年は寝ぼけた感じで言った。そして俺たちを認識したのか、少しびっくりした感じで、  「え、誰。」と小さく叫ぶ。  寝起きに知らない年上と思しき男が3人もいたら驚くか。  「ここで倒れてたんだよ。怪我とかはないかい。」と雅人が答えた。  辻褄を合わせるためとはいえ、真っ先に嘘を答えられるとはさすが頭が回ると感心した。  少年の方は雅人の問いには答えず、何かを考える、あるいは思い出すようにうつむいた。やがて次のように言った。  「家に帰る途中だったんですけど、よく思い出せないんです。」  見た目が派手だったので、敬語で俺たちに話すのが意外だ。  しかし、酔っ払いじゃあるまいし、あんなところで寝ているなんて不自然なことこの上ない。本人は何も覚えていないというし、まさか本当に酔っぱらっていたのだろうか。だとしても俺たちが深入りすることではないが。  さて、救急車は呼んだが少年は起きてしまった。少年も怪我はないというし、救急車を呼ぶような大事ではなかったのかもしれない。  しかし、智一は先ほどから折り返しで救急車からかかってきたであろう電話で状況を説明している。  俺は救急車を呼ぶ場面に出くわしたことで妙な高揚感に包まれていた。倒れていた少年以外それは同じだったようで、俺たちは暗黙のうちに救急車を待つことにした。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加