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やがて救急車のサイレンの音が遠くからやってくるのが聞こえる。救急車は俺たちの前まで来て路肩に停車した。
「通報いただいたのはこちらですか。」と白いヘルメットをかぶった救急隊員が出てきて、そのうちの一人が俺たちに尋ねる。
「はい、この少年が倒れているのを見つけたんです。」と通報者である智一が少年の方を指しながら説明する。
救急隊員は少年の方に目を移した。少年が目を覚ましたことは先ほどの智一の電話の中で説明済みだったので、救急隊員は少年に直接体に違和感のあるところがないか聞いた。
すると頭がぼーっとして倒れる前の記憶がないなど、異常を示すような症状があったので一応病院へ搬送ということになった。
「通報ありがとうございました。また何かあれば連絡があると思いますのでよろしくお願いします。」そう言って救急隊員は少年を乗せた救急車で去って行った。
ただの通りすがりの俺たちにこれ以上の出る幕は無いと思ったが、ただの社交辞令として受け取った。
勢いでここまできたが、今日は肝試しのつもりが救急車を呼ぶことになるとは思いもよらない大冒険になったな。
倉庫に到着するまでの恐怖や不安はすっかりなりを潜め、人助けをしたという達成感や高揚感が俺を満たしていた。帰る途中、自転車に乗って見える風景は、行きに見たそれより安心して見ることができた。
やがて行きに通り過ぎたコンビニまで戻ってきた。先頭を走っていた智一が、アイスが食べたいというので寄り道をする。
各々がアイスや飲み物を購入して店を出ると、駐輪場で雅人が購入したアイスキャンディーの袋を開けた。それを合図に智一もカップアイスの蓋を開け、俺もペットボトルの蓋をあける。
「あの少年どうしてるかな。」とヘラのようなスプーンでアイスを口に入れながら智一が言った。
「今頃は救急病院かな。」とアイスキャンディーに注目したまま雅人が答える。
「しかしなんであんなところに寝てたんだろうね。」と炭酸飲料を飲み込んで俺も話に入った。
「んー、実はあそこがお家だったり。」と智一が冗談を言ってくる。
「そんなわけあるかよ。引越ししたばかりにしても荷物が多すぎるだろ。」と俺は笑いながら言った。
「あるいは、また帰ってきたのかも。」と怪談話をするときの口調で智一が言う。
「帰ってきたって、どこから。」と緩んでいた頰を戻しながら俺が聞き返す。
「神隠しだよ。」と分からないのか、というような表情で智一は答える。
「例の掲示板に行方不明者の写真が一部公開されてたんだけど、その一枚によく似てた様な気がするんだよな。さっきは気がつかなかったけど。」と、さらに智一は続ける。
「じ、冗談もほどほどにしとけよ。」と俺は冷たいものを腹の奥に感じながら智一の話を遮る。
「そうだな、未成年なのにお酒で酔っぱらってたとか、その辺だろ。」と雅人はやれやれというように肩をすくめながら言った。
コンビニを出るとすでに時刻は日付が変わって、0時30分になっていた。
雅人と智一と別れて家に着くと、慣れないことをしたためか疲れがどっと出てそのままぐっすりと眠ってしまった。
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