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スーツの二人に連れ出されマンションの下に行くと、見知らぬ車が止まっていた。おそらくこの二人が乗ってきたものだろう。
「それで、お聞きしたいのはですね、」と篠崎が口火を切る。
「昨日、あなたと友人二人が、少年を助けた正確な状況です。」と、そこまで言ったところで今度は手帳を開き、さらに次のように言った。
「まずは、時間、場所、発見時少年がどのような状態だったかを話してもらえますか。」
さて、どうしたものか。
智一は本当に本当のことを話したのだろうか。
この人たちの格好から察するに、あの少年が未成年飲酒していたとか、そんなことよりもっと大事がおきているのだろう。下手に疑われるようなことを言えば面倒になることは目に見えている。
しっかりとした体躯の大人二人の圧迫感もあり、緊張を隠せない。
「えっと・・・時間は確か、11時を過ぎていたと思います。場所は海岸沿いの倉庫でした。僕らが肝試しをしていて通りがかったところに少年が倒れているのを見つけたんです。」と、虚実を交えて答える。おそらく智一もそう答えたであろうと踏んでいた。
時間の方は未成年が出歩いて良い時間ではなかったが、救急車を呼んでいたし、調べられれば分かってしまう。
「少年はどのように倒れていましたか。」と篠崎がさらに質問してくる。
その語調はどこか詰問するようで、嘘をつかせないような力強さを感じる。そういえば昨日少年を運んだ時は適当に仰向けに寝かせてしまった。
どうする。俺は一瞬の間にいくつかの考えを巡らせた。しかし、どれも適切な回答になりそうなものはなかった。
「確か、倉庫の荷物にもたれるようにして倒れていたと思います。」
若干目が泳いでしまっただろうか、少しの間を開けて答えた。
篠崎は何か反応を示すでもなく手帳に何かを書き込み、つぶやくように、なるほど、と言って咳払いをした。
その咳払いを合図にするかのように今度はもう一人の刑事が、はっとしたように手帳を見ていた顔を上げた。
「えーっと、僕からは・・・なぜあんな場所で肝試しをしていたんですか。」と、顔を上げた刑事は慣れない口調で尋ねてきた。
「友人に誘われたんですよ。一緒に肝試しをしていた笠間智一です。神隠しが起きるとネットなんかで噂になってるから確かめに行こう、と。」と俺は答える。
篠崎に比べるともう一人の刑事は覇気がないためか、少し気楽に答えられた。
俺の答えを聞くと、一瞬手帳を見てからさらに質問してくる。
「少年とは面識がありましたか。」
「いえ、全くの初対面です。救急車を待っていた時も名前も聞きませんでした。」と俺は答えた。
「あの、少年に何かあったんですか。」と今度は俺の方から聞いてみた。
篠崎は手帳を見たままボールペンの頭で頭を掻きながら、実は、と話し始める。
「あの少年は行方不明だったんですよ。誘われた友人から話を聞いているなら知っているかもしれませんが、あの場所で短期間に数名が行方不明になっているんです。我々はその捜査をしているんです。」
そう言った篠崎の表情はどこか暗く、捜査がうまくいってないことを物語っている。
「そ、それって。」
俺は自分の顔から血の気が引くのを感じていた。脳裏に昨日智一が言っていた冗談がよぎる。
俺の表情の変化に気が付いたのか、篠崎は手帳から顔を上げて言った。
「少年は無事です。現在、病院の方で精密検査をしています。」
篠崎は俺の顔色を窺うように少し間をおいて、
「何か気になることでもあるんですか。」と言ってきた。
口にすることで現実になってしまいそうで憚られたが、篠崎は回答を待つよように俺の顔を見ている。
「記憶がないんですか。」間に耐えられずに口をついて言葉が出てしまう。
二人の刑事は少し驚いたような顔をした。
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