チョコ

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チョコ

 千草千代は幼い頃、チョコって呼ばれていた。  東池袋署の刑事課に勤務して3年。  東池袋駅の裏手にあるCDショップに、後輩の鴇田亨とやって来た。  最近、窃盗事件が頻発していた。    チョコは1996年8月23日、オクシブに生まれた。母親の遊子は売春婦をしていた。  父親の卓弥は、酒に酔って電車に轢かれ、両足を失った貧弱な元鉄道員であった。  チョコは11番目の子供であり、遊子は男児が生まれてくることを期待していた。  だが、チョコが女児であったことに失望する。  遊子は娘を「ユタカ」と名付けて男装をさせたり、意味も無く殴りつけたり、自身の客を家に呼んでチョコの前で性交し、それを見るように強要するなど、執拗な性的虐待を繰り返していた。  遊子はしばしば「お前は死ぬまで私の奴隷」「あんたは悪魔から生まれた生き物なのだから、当然あんたは悪魔なのだ。腐ったろくでなしとして生きてもらう」「あんたはこの世に地獄をもたらすために生まれてきた」と、チョコを罵倒した。遊子以外の人物にチョコが優しく接せられると、遊子は激しく怒り、チョコに優しくした本人を口汚く罵った。  小学校の高学年になったとき、チョコは猫を飼いたがっていた。  遊子が珍しく猫の子供を買ってきてチョコに与えたことがあった。チョコは喜び、寝食も共にするほど気に入り、猫もチョコに懐いた。遊子がチョコに、猫が気に入ったかどうかを尋ね、チョコが気に入った旨を告げると、その猫をナイフで殺した。チョコ自身、「ママは、ワタシが何かを愛するという感情を抱くことに我慢ならなかった」「ママは完全な狂人だった」と告白しており、遊子が人格的に異常であったことは明らかであった。  チョコは10歳で酒の味を覚えたが、それは父親の影響であった。父親もまた遊子から罵倒されたり虐待されていた。父親は遊子に虐待されるのが好きであった。チョコは鴇田に、「本当の親父だったかどうかも分からない」「汚らわしいマゾだった」などと語った。14歳ではじめての殺人(同級生を絞殺)を犯した。最初の殺人は、チョコにとって最悪のものであった。    ショップに変わった様子はなかった。  オクシブ界隈は、童謡の『春の小川』の舞台にもなった場所だが、悪夢しか残っていない。  はぁ……30になっちまう。  結婚ってものが刑務所より恐ろしく感じられた。
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