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慎一郎は頭を上げた彼女の肩を抱き寄せる。
「・・・とりあえず、落ち着こうか」
「うぅぅー」
「本当は仕事も巴も両方大事なんだ。でも俺の器量が小さいから先月は仕事一辺倒になってた。それに対する申し訳ない、なのだが」
「仕方ないですよ。職場も職位も変わったんですもん」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、我慢してないか?」
そう訊ねると、彼女は小さな声でぽそっと呟いた。
「・・・本当は少し、ないがしろにされた気がして寂しかったです」
慎一郎は、なだめるように巴の頭をポンポン、と軽く叩く。
「そういうの、もっと言葉にしてくれる方が助かる」
自分と彼女とは他人同士。
彼女の本当の気持ちは聞いてみなければわからない。
だからこそ自分は、思考を言語化するよう努力する。
「今、気づいたんだが、待っててくれてありがとう、の方が適切だったな」
「そうですね、その方が、なんというか前向きな感じです」
目に見えない好意を伝えるために、手を繋いでキスをする。
わずらわしくて、いとおしいこの感情を、きっと恋と呼ぶのだろう。
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