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「俺、あの家を出るとき、そのエプロンぐらいしか持って出れなくて、全部忘れて前を向いて歩かなきゃいけなくなって。でも助けてくれた流伽だけは忘れたくなかったから、――その」
言いにくそうにスープから顔をあげ、頬袋の中からスープを押し出している。
その姿は、犬のチャウチャウみたい。
「その?」
「女性ファンには、きっと態度が悪かったんじゃないかなって申し訳なくなる」
「ああ、一慶さんて律儀そう」
「でも! 流伽が好きだし! 流伽がいいし! 流伽以外見れるほど心も広くなかったんだよ!」
声も大きい。目の前にいる私にそんな大きな声でアピールしなくてもいいのに。
「じゃあ、試合中の一慶さんに惚れてしまった女性は、まったく一慶さんに振り向いてもらえなかったと」
「ああ。でも例え、俺が百人いても百人とも流伽を選ぶし」
百人の一慶さんを相手にしたら、私は一日で過労死しそうだけど。
「そこまで一慶さんが悩まなくていいですよ。女性ファンは、試合中の雄姿さえみれたら、きっと満足ですよ」
「そうかな。でも受け入れられない分、試合で返していこうとは思うよ」
トボトボとテーブルの上を歩いていくので、首を傾げる。
「どうしたの?」
「スープ、おかわりしようと」
「それぐらい、私がしますから。座っててください」
もう飲む終わっていたことも驚いたが、言えば私が継いだのに。
「る、流伽ああああああ! 好きだ!!!! 君のお味噌汁が毎日飲みたい!」
「これ、コンソメスープでっす」
このテンションにもはやく慣れてしまいたいものだ。
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