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まんまるお月様が空に輝く紅い夜。
古くから「紅い月」は凶兆だと畏れられていたなんて今は知らない人の方が多いだろう。
鼻唄混じりで賑やかな夜の街を歩けば人の声、車やバイクの音、勧誘にカラオケの音が折り重なって不協和音のような協和音を織り成している。
普通という定義はまぁ大雑把に「多数」としよう。
多数いる普通の人たちは夜の街を歩きながら「殺人」の構想をたてる人間がいるなんて思いもしないだろう。
「っしゃいやせー」
鼻唄混じりに歩いていた男と、声を張る客引きの男がぶつかった。人混みを歩いていてぶつかるのは、よくある風景でよくある事。
「ぃってぇ……」
──あーかい月がにんまりと嗤う……
鼻唄を唄う男がにんまりと嗤った。
膝から崩れ落ちた客引き男はコンクリートを赤い血で汚しながら、ビクリ、ビクリと痙攣しながら息絶える。
鼻唄混じりの男は何事もないように人混みに紛れて姿を消した。
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