赤い月。

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赤い月。

 紅い月はいつもと同じ。 変わらない日常と、変わらない街と、変わらない行き付けのBar「斜めの音楽」の空気感とマスターの笑顔で身体の力が少し抜ける。 「……ますたぁぁぁ」  朝早くてもこのBarに立ち寄る。  ルーティーンであり、体調を確認するのに丁度いいからだ。 「いらっしゃい、陽咲ちゃん」  朗らかな笑顔に癒される。たまにしか出てこない料理担当の白埜に会えた日は次の日良いことがあると思う。 「いらっしゃい、琴音ちゃん。今日もなんかあったん?」 「白埜さんんんん」  ジャズのリズムが店を満たして反響して客やマスターたちの動作音が協和音のように落ち着くリズムを生み出している。 「おん、どないしたん?とりあえず大根切り干し食うか?」  大根切り干しを山になるほど盛った小鉢とビールを差し出した。かまぼこと人参の入った大根切り干しは陽咲の好物だ。 「頂きます!」  嬉しそうに美味しそうに食べる陽咲に微笑みながらいつものセットを用意する。 「明日はゆっくりの日?」 「明日は病院なのでおやすみです!定期検診?なので……採血と注射の日です……」  いやだなぁとぼやく陽咲がカウンターにうつ伏せになれば飲みかけのビールの隣にジョッキの烏龍茶を出す。 「気休めだけどね」
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