第三章 虚構と現実

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「絶対に嫌だ!それメスが着る奴だろ!外で似たようなの着てるプードルたくさん見た!」  リヒトは絶対に着せられまいとお母さんの手の中でジタバタ暴れている。 「こーら!めっ!大人しくしなさいっ」  とりあえず考え込むのをいったん止め、そんなリヒトとお母さんの攻防戦をしばらく傍観していた私だったが、微妙に心に引っかかっていた疑問をついに口にした。 「お母さん、わざわざ何でそんなに女の子っぽい服選んだの?」  リヒトはオスなんだけど……と続けようとすると、 「えー?可愛くていいじゃない。それに、あんた子供の頃こういう女の子っぽい服あんまり着てくれなかったでしょ」  確かに、子供の頃の私はこういうヒラヒラしたレースの付いたような服よりも、もっとズボンとかボーイッシュなものを好んで着ていたような気がする。最近は割と女子っぽい服も着るようになったのだが。 「せっかく買ったのにもったいなかったし……。だったらリユースしてリヒトちゃんに来てもらおうと思って」  リユース……。最近母はやたらとカタカナ語を使いたがるのだ。 「大丈夫。ちゃんと尻尾が出る穴は開けてあるから」  いや、そういう問題じゃ……と言おうとしたときには、母との戦いに敗れて爽やかな青のワンピースで身を包むリヒトの姿があった。
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