第三章 虚構と現実

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「あれ?今日はから揚げとかお惣菜じゃないんだ?」 「それだとお母さんがいつも手抜きしてるみたいじゃない……。今日くらいは特別、ね」  お母さんがリヒトを一目見て私にウインクした。 「リヒトちゃんも来てくれたことだし、今日は特別!」  いつもの食卓には、香ばしく焼き上げられた分厚いステーキや、瑞々しいサラダが並べられている。 「わーっステーキ!何か久しぶり」 「いつもこんな贅沢するわけにはいかないけどね」  たまには千穂の好物をね、と続けるお母さんはいつになく慈愛に満ちた聖母のように見えた。 「千穂、お父さん呼んできて」 「はーい!」  そう言えば今まですっかり忘れていた父の存在感。  私は五歳くらいの無邪気な子供のように、父の寝室まで駆けていった。
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