第三章 虚構と現実

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「お父さーん、夕飯出来たってー」  私がドアに向かって呼びかけると、しばらくしてお父さんがドアを開けて「ああ」と顔を出してきた。そのままノソノソと歩くお父さんと一緒に、ご馳走の並んだリビングまで歩を進める。  食卓に並ぶ夕飯を見たお父さんが一言、 「今日は豪華だな」 「お父さんまで千穂と同じこと言って……、よっぽどいつもショボいメニューだと思われてるのかしら」  母の言葉を聞いたお父さんが慌てて、「いやいや、そういう意味じゃ……」と言い訳してる間に、私は「いただきまーす!」と箸を使ってステーキにかぶりつく。 「あんたねえ……いつも言おうと思ってたけど、そういうものはちゃんとナイフとフォークで切って食べなさい」    獣じゃないんだから……と呆れて言うお母さんに、「人間も動物だよ?」と返しながら一応ナイフとフォークに持ち替えた。  カチャカチャと、慣れないナイフとフォークでステーキと格闘する。    ええいまどろっこしい、噛み切った方が早いのに。 「おい、オレもお前の食べてるやつがいい」  リヒトが私の食べている様を恨めしそうに見上げている。  足元の彼の銀の食器には、恐らくカリカリとした食べ心地であろう茶色いドッグフードが盛られていた。 「……これは君の体には毒なの。きっとそっちの方が美味しくて健康にもいいから……」  とはいえ、私には犬耳人間の姿に見えているリヒトが床に這いつくばって犬用のご飯を食べている図というのは、なかなかにシュールだった。  まあ、仕方ないっちゃ仕方ないんだけど……。 「何だコイツ、犬のクセに人間の食べ物が食いたいのか?」  お父さんがそう言って彼を見下ろすと、ワンっ!と相手を威嚇するように一吠えするリヒト。  それを聞いたお父さんはビクッと体を震わせると、もうリヒトについては何も言わずに黙々と夕飯を口に運ぶのだった。
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