第三章 虚構と現実

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 いつになく豪華な夕食を終えると、リヒトと一緒に自分の寝室がある二階へと向かった。  ご飯をちゃんと食べてくれるか心配だったのだが、「まあ悪くなかったな」と定食屋のオッサンのような台詞を吐きながらきちんと完食してくれた。初めての環境に犬が緊張してエサを食べてくれないというのは良く聞く話なので、とりあえず一安心。  自室のドアをガチャリと開ける。  私の部屋は割と殺風景で、小学校一年生の頃に買ってもらった学習机があり、お世辞にも女子っぽいとは言えない部屋だった。かろうじてベッドの上に置いてある犬やウサギのぬいぐるみがギリギリ女子感を醸し出している。十四歳の女の子が好みそうな雑誌や小物が無い代わりに、漫画やゲームが置いてある。いわゆるオタクっぽい部屋。 「ここがお前の部屋か?」とリヒトが言うので、初めて彼氏を自分の部屋に連れ込んだ時のような謎の気恥ずかしさがあった。 「犬……この子は犬なんだ……」と自分に何度も刷り込むようにつぶやき、緊張を解こうとする私の努力をこの子は理解……してるわけないか。  そもそも、私が彼の姿を正しく認識できていないということすら分かっていないのだろう。 「あ、そういえば」  リヒト用のペット用品を購入しておかなくてはならない。  特に服とか。  お父さんに犬を飼っていいと言われてからというもの、近くのホームセンターに行き犬用のケージや食器などを大急ぎで揃えたものの、まだ色々と買えていないものが多かったのだ。  自室のパソコンに向かい、インターネット通販大手のマルゾンでぽちぽちと注文する。  購入ボタンを押すと、自分の部屋に戻ってきた安心感もあってか疲れがドーッと出てきて、私は自分のベッドに仰向けに倒れ込んだ。  それまでクンクンと部屋の匂いを嗅いでいたリヒトだったが、私の動作を見てベッドにピョンッと飛び乗ってくる。大していい造りでもないベッドが、ゆさゆさと揺れた。 「あー……人間のベッドに犬を乗せるのは、本当はしつけとして良くないんだけどな……」  うん、でもきっと犬用ベッドは明日には届くだろう、マルゾンだし。
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