第三章 虚構と現実

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 リヒトがくんくんと今度は私の匂いを嗅いでいる。  正直だいぶ恥ずかしいので止めてほしい……が、本能なので仕方がないか。  私の匂いを一通り把握したらしいリヒトは、今度は仰向けに寝ている疲れ切った顔を覗き込んできた。  初めて会ったときに毒々しいと感じた黒い瞳は、今はだいぶ丸みを帯びて見えた。  彼に、ずっと気になっていたことを聞いてみる。 「初めて会ったとき、君は私のこと嫌いだったよね?どうして、今はこんな風に大人しく側にいてくれるの?」  それは脱衣所で彼に手を舐められてからというもの、ずっと頭の中にあった疑問。恐らくあの時からだろうか、リヒトの態度が変わったのは。彼の舌の感触から、実際の温度だけではない心のぬくもりのようなものを感じた。 「可哀想だと思ったんだよ」  え?  今なんて。 「お前が可哀想になったんだ。オレよりもでかい図体してるくせに、人間のクセに、あの場で急にへたり込んじまうんだから」  それはつまり。 「守ってやらなきゃならない弱い奴だと思ったんだ。だから、少しは優しくしてやろうと思ったのさ」  そっか、リヒトが大人しくなった理由がやっと分かった。  つまり、この子はとても優しいんだ。優しいから訳の分からないタイミングで急にうずくまる私を見て、『可哀想』だと思い助けてくれようとしただけなんだ。
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