第三章 虚構と現実

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 リヒトに人間用のトイレでの用の足し方を教え(彼はその点については物覚えが良かった)、ドアノブの開け方も教えた。彼が大型犬で色々と助かった。チワワなどの小型犬であれば、言葉が分かったにしても、ドアを開けたり人間用便座で用を足すのは一苦労だっただろう。  これでひとまずリヒトの生理的な問題は一つ解決した。  私たちは一緒に自室に戻り、もう一度ベッドに入り直した。  用も足して安心したのか、リヒトはもう一度大きくて盛大なあくび(今度は本物の)をすると、すぐに体を丸めて眠ってしまった。  私はしばらく彼のあどけない寝顔を眺めていたが、今度は自分の生理的現象に悩まされることになってしまい、リヒトの眠るベッドからそっと抜け出した。  階段を下りて一階に向かうと、寝室から聞こえてくる両親の話し声。  何となく気になってしまい、そっと耳をそばだてると……。  まずお母さんの声が聞こえた。 「あの子を引き取ってよかったわね、お父さん。リヒトちゃんが来てから、千穂すごく元気になったじゃない」  ――それに応えるのはもちろんお父さんの声。 「……どうだろうな。俺は正直、あの犬が来てから千穂の様子はおかしくなったと思う」
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