第三章 虚構と現実

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 そこまで両親の話を聞いて、私の胸はすっと冷めていった。  そのままトボトボとした足取りでトイレに向かい、両親のやり取りを頭の中で反芻する。  何故急に両親が犬を飼っていいと言ったのか、やっと理由が分かった。あれだけ犬を飼うことに反対していたのに不思議だったのだ。  結局、お父さんにもお母さんにもリヒトにとってさえ、私は保護の必要性のある腫物のような存在だってことか。 「本当に、守られてばっかりだな」  ボソッとつぶやいた言葉は、薄暗いトイレの床に落ちてそのまま消えていった。  トイレから出て部屋に戻ると、リヒトがすーすーと寝息を立てていた。安心して眠っているように見える。  私はそっとベッドに潜り込むと、彼のクリーム色の犬耳に顔を寄せてみた。その匂いを嗅いでいると、少しは気分が落ち着いてくる気がした。  そのまま、私の意識は夜の中に溶けていった。  ――その晩、また夢を見た。  昨日の夜と同じく、舞台は犬たちが殺処分寸前の動物管理センターのようだった。  私とリヒトは同じ動物用のケージに入れられて、誰かに連れられ管理センターを後にする。  残された犬たちの悲痛な声が聞こえ――そこで夢は終わった。
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