第四章 目覚めとパグとブルドッッグ

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 悪夢にうなされていると、身に覚えのある温かい感触が顔の上でもぞもぞと動いていた。カーテンの隙間から柔らかい光が差し込んでいる。恐らくもう朝なのだろう。  それでも寝起きの悪い私がなかなか起きられずにいると、その温かい感触が口の中にまで入ってきそうになって……。 「……うわぁぁっ!」  正体不明のキス魔に怯え慌てて飛び起きると、私を不機嫌そうに見つめる真っ黒な瞳と出会った。私の顔の上で好き勝手していた者の素顔は、犬のように舌をべろっと出したリヒトだった。 「お前がなかなか起きないから苦労したじゃねぇか」  そうか、私を起こそうとして顔をべろべろと舐めまわしていたわけか。リヒトらしい行動だ。そう、私にはこの子が人間の姿に見えているけれど、本当の姿は生後十か月(後からお父さんに聞いた)のゴールデンレトリーバー。少年の見た目に騙されてドキドキしても仕方ない。  起きがけの回らない頭でグルグル考えていると、ふと部屋の異変に気が付いた。 「おはよリヒト……って、うわあああぁああぁぁっ!」 「チホって叫ぶの好きな」  呑気に言うリヒトに、むくんだ顔で恨みがましい目を向ける。  今朝の私の部屋は、空き巣でももう少し上手く荒らすだろう……というレベルにグチャグチャになっていた。
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