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物は散乱し、大事なコレクショングッズまでもが見るも無残なことに……。
「あああ……私のローゼくんがぁ……」
大好きな乙女ゲーム(女性用恋愛ゲーム)のキャラのポスターが、貼ってあった壁から落ちてペラペラと床に張り付いていた。同じように私もへなへなと床に崩れ落ちる。その様子を見たリヒトが、怪訝そうに話しかけてきた。
「それ、ただの紙だろ?そんなに大切なもんだったのか?」
ただの紙?確かにリヒトから見ればそうかもしれない。でもねえ……。
「私にとってはただの紙じゃないんだよ……。すごく大切なものなんだよ……」
そう、ただの紙では無い。夢の詰まった大事な大事な存在なのだ。
「そうだったのか?ごめん……チホがなかなか起きないから不安になって、つい……」
耳と尻尾をペタンと垂らして落ち込むリヒトにそれ以上怒ることは出来ず、私はそっと彼の頭を撫でた。というか、寝起きでテンションも上がり切っておらず、キレることすらできなかったという方が正しい。
「……ていうか、こいつはお前の何なんだ?ペラペラで弱そうだし、オレに剥がされても文句ひとつ言わないぞ?あと、こいつの毛の色って……」
リヒトの言葉で、ハッと気が付いた。そう言われてみれば、リヒトの毛の色とローゼくんの薄い金髪はどことなく似ている。もしかすると……。もしかすると私は、憧れの乙女ゲームのヒーローとリヒトを重ねていたのだろうか。あの日動物管理センターで見たクリーム色の髪に、その憧れを。
「ろーぜ……だっけ?どんな奴なんだ?そいつ」
「……ローゼくんはね、シュナイダー王国に仕える騎士なの。剣を使って自分よりも強くて大きいモンスターにも怯まず立ち向かっていくんだよ。……守るべきお姫様のために」
それを聞いたリヒトは、未だ床に張り付くリーゼくんに今までとは違った感心するような眼差しを向けた。
「へー、こんなペラペラなのにすごい奴なんだな……」
そしてオレの方が強いと思うけど、とフンっと鼻を鳴らした。
「で、その守るべきお姫様ってのはどういう奴なんだ?そんなすごいオスが惚れこむんだからさぞかしすごいメスなんだろうな」
「……」
「ん?どうしたんだ?チホ、黙り込んだりして」
私はそれには答えず、黙々と荒らされた部屋の中を片付けるのだった。
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