第四章 目覚めとパグとブルドッッグ

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 一通り部屋の片付けが済むと、リヒトと一緒に一階のリビングまで降りて行った。 「千穂、朝からずいぶん騒がしいようだったけどどうかしたの?」というお母さんの問いかけに苦い笑いを返し、遅めの朝食をもふもふと食べる。リヒトも部屋を荒らしてしまったことを彼なりに悪いと思っているのか、私の食べているウインナーをねだることも無くムシャムシャとドッグフードを食べていた。  午後になると、ピンポーンと玄関のチャイムが鳴り、威勢のいい配達員さんの声が響く。昨日注文しておいたマルゾンの品が届いたのだろう。急いで受け取ると、お馴染みの段ボール箱を開けて中身を取り出す。  中には様々なペット用品が詰まっていたが、中でも目に付いた品を即座に手に取った。  それは待ちに待った……『犬服』!  未だ私の小さい頃に着ていた青いヒラヒラワンピースを着続ける可哀想なリヒトのために、是非とも必要な代物である。  本当はもっとオシャレなものを買ってあげたかったのだが、中学生のお小遣いでは限界がある。洗い替えもいるだろうと、とりあえず三着ほど買ってみた。黒いパーカーに迷彩柄、ボーダー柄の服など犬の服といっても色々あるものだ。小型犬用の服ならばもっと安くて種類も豊富だったのだが、あいにくリヒトに着せるのは無理だろう。 「リヒト、どれがいい?」  ヒマそうに床につっぷしていたリヒトは、私の声に反応して面倒くさそうに近寄ってくる。私が持っている物を見た彼は、あまり関心が無さそうだった。 「なんだソレ?」 「君の新しい服だよ」  ああ、やっとこの服とおさらば出来るのか、と皮肉そうな笑いを浮かべてワンピースをヒラヒラさせるリヒトに、私は届いた服を床に並べて見せた。 「どの服がいい?」 「とりあえずこのヒラヒラから逃れられるならどれでもいいや」  私が想像していた何百倍も嫌だったみたい……。ごめんね……リヒト。 「じゃあ、この黒いパーカーはどう?」 「ああ、悪くないんじゃないか」  マルゾンで買ったフード付き黒いパーカー型の犬服は、値段の割にオシャレに見えた。まあ、私はあまりメンズファッションに詳しい方では無いのだけれど。ただ、問題が一つ……。 「じゃあ、チホが着替えさせてくれ」 「…………」 「ん?どうしたんだ?」  人間同士なら立派なセクハラにあたるのだが、リヒトは自分で着替えることが出来ないので仕方ないのだった。 そして、しぶしぶリヒトの着替えを手伝っているともう一つの問題点が発覚した。 「あ……隠れない」  そう、犬用の服というのは大体上半身だけのデザインで、股間が出るように設計されている。排泄のためにそれは仕方ないのだが、リヒトが人間の姿に見えている私には非常に困るのだった。  結局、割と大きめのサイズを買ったのが幸いして、何とか引き延ばしてギリギリ隠すことが出来た。私の目のやり場は何とか守られた。
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