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「あ、リヒトちゃんに新しい服着せたのね」
私よりもファッションに敏感なお母さんが、リヒトの着替えに気づいてやってきた。
「えー、前の方が可愛かったのに……。さっきまで着せてた服の方が良かったんじゃない?」
お母さんはとにかく可愛いものが好きらしい。着せられているのがオスかメスかなんて、彼女には大した問題では無い様だ。
「もー!リヒトは男の子なの!だからこういう男っぽい服の方がいいの!」
リヒトの尊厳の為に、私は全力で戦わなければならない。
「あんた、若いくせに考え方が古いわよね……。今やジェンダーレス男子なんて普通よ?」
「それは本人が望んでるからいいんでしょ……。リヒトはヒラヒラの服なんて着たがってないから!」
「何であんたにリヒトちゃんの考えてることが分かるのよ?」
ねーリヒトちゃんは可愛い服も好きだもんねぇ、とリヒトに話しかけてあくまで食い下がってくる。そんなに犬にワンピース着せたいのか。私の母親は。
「お母さんがリヒトにワンピース着せたときに、この子がバタバタ暴れてたの覚えてないの?今着替えさせたときは大人しかったんだよ」
それを聞いたお母さんは、「あっそ」と残念そうにつぶやいた。やっと諦めてくれたようだ。
「私はまたあんたがまだ犬の声でも聞こえてるのかと思って……」そうボソッと言った後、「ああ、何でもない何でもない、あんたには関係ない大人の話」と慌てて訂正するお母さん。
普通に聞こえてるんですけど……。
「あ、そういえばお父さんが、『あの犬と散歩にでも行ってきたらどうだ』って言ってたわよ」
「お父さんが?」
お父さんがリヒトの世話について積極的に提案してくるのは、少し意外だった。お父さんは、何となくだがリヒトを嫌っている節がある。
「何かあんまりリヒトちゃんと一緒にいたくないんだとか……。こんなに大人しくて可愛いのにねぇ」
よしよし、と言いながら、お母さんがリヒトの胸を撫でる。恐らく普通の人から見れば微笑ましい光景なのだが、私から見るとやっぱりヤバイ構図だった。
「分かった、近くの公園にリヒトと散歩に行ってみるよ」
確か近くに犬と同伴OKの公園があったはず。そこならリヒトを伸び伸びと遊ばせられるだろう。距離的にも徒歩で行ける範囲なので、これからお世話になることが多いかもしれない。私は犬用の首輪とリードを取りに行った、そして……
「リヒト、これ付けて」
「あん?」
手に持っているそれを不満げに見ているリヒトに構わず、赤い首輪をカチャリと取り付ける。リヒトにこうして首輪をするのはこれで二度目だ。改めてよく見ると、細くて白い喉に赤い首輪がよく映える。
「じゃあ、行ってきます」
お母さんに別れの挨拶をし、私とリヒトは午後の光の漏れる玄関へと向かった。
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