第四章 目覚めとパグとブルドッッグ

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 家から歩いて十数分の場所に、犬を自由に遊ばせることの出来る公園がある。広い芝生が広がっており、犬と人間が運動するのに十分な面積を備えていた。芝生の上には色鮮やかな落ち葉もちらほら。枯れ木に包まれる秋の公園は、少しだけ寂しげな雰囲気が漂っていたが、そんなことはリヒトには関係ないようだった。ラッキーなことに周りに誰もいなかったため、気兼ねせず自由に遊ぶことが出来るだろう。広い場所に興奮しているのか、リヒトの黒い瞳はキラキラと輝いて見えた。色素の薄い髪の毛が、涼しい風になびいてさらさらと揺れている。 「リヒト、自由に遊んできていいよ」  私はそう言うと、近くのベンチに腰を下ろした。そのままリードを放し、リヒトを自由に遊ばせる魂胆だった。本当はリードから手を放すのはいけないことなのだが、誰もいないし多少は大丈夫だろう。それにリヒトには他人に迷惑をかけないよう、玄関を出るときに散々言い聞かせてあった。こんなとき、言葉が通じるというのは本当に便利なものだ。 「は?何言ってんだ?チホも一緒に来るんだよ」  リヒトの言葉に「へ?」と間の抜けた声で返したのもつかの間、私の体を引っ張る若々しいエネルギー。十四才といっても、学校の体育以外は家でゲームをしたり漫画ばかり読んでいるインドア派の私。少しひねくれた性格を除けば、元気いっぱい体力のあり余っていそうなリヒト。一緒に遊んでも私が楽しめないのは明らかだった。 「ま、待って!そんなに引っ張らないで……」 「一人で遊んでもつまんないからなー、ていうか、思ってたよりトロいな、お前」  犬耳をはためかせて走るリヒトが犬歯(犬でも犬歯というのか?)を見せて、少し馬鹿にしたようにニッと私を振り返る。流石にカチンと来た私は、リヒトに追いつこうと一生懸命走った。こんなに走るのは、大嫌いな体育の50メートル走くらいだった。しかし、運動不足の体はなかなかいうことを聞かず、リヒトのスピードに付いていけないばかりか体勢を崩し前につんのめった。 「あっ!」
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