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顔から土を払って目を開けると、何かをくわえてこちらへ歩いてくるリヒトの姿が。私の目の前までやって来たリヒトは、何か青くて小さいものをぽとりと口から落とした。怪訝に思って見てみると、それは妙なデフォルメを施されたペンギンのマスコットキーホルダーだった。
「これ、チホにやるよ」
「なに?これ……」
「知らね。掘ったら出てきた」
彼なりのプレゼントかもしれないが、目の前のそれはどう見てもボロボロで土にまみれており、ついでにデザインも微妙に可愛くなかった。……正直、ほしくない。
私が微妙な顔をしているのを見て取ったのか、リヒトは少し悲しそうな表情になった。
「それ……要らなかったか?」
いやその……と言葉を濁していると、ますます悲しそうな顔になるリヒト。彼のそんな顔を見て「要らない」と言えるほど、私は悪人じゃなかった。
「ありがとう、リヒト。大切にするよ」
その言葉を聞いたリヒトの顔が、ぱっと分かりやすく輝いた。リヒトのそんな表情を見れただけでも、私はボロボロのペンギンマスコットを受け取った甲斐があったと思えた。
気が付けば、空は茜色が差しており、そろそろ中学生は家に帰らなければならない時間になっていた。こんなに時間が早く経つなんて知らなかった。きっと、時間の概念は一人ひとり異なるのではなく、密度によって決まるのだ。
足元でじゃれるリヒトのふわふわとした髪の毛を撫でていると、一瞬だが世界がクリーム色に輝いた気がした。
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