第四章 目覚めとパグとブルドッッグ

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 結論から言えば、運のいいことに私は彼女らに遭遇しても戦闘はせずに済んだ。リヒトの方はというと、相棒の怯えと相手の敵意を敏感に感じ取っているのか、歯をむき出してうーうー唸っていたけど。戦闘意欲満々のリヒトに対して、私は例え彼女らが攻撃してきたとしても“逃走”の選択肢一択だったろう。魔子と亜子がレベル50のオークだったとして、私はせいぜいレベル3の子ネズミ。  勝てない戦闘はしないに限る。 「おい、チホ」  遠くから声が聞こえる。 「おい、チホ!」  何だリヒトの声か。一瞬誰の声だか分からなかった。 「何で戦わないんだよ」  リヒトが私に問う。 「戦うって?」  私が?誰と? 「アイツらだよ、アイツら!あの二人、お前に敵意っつーか……めちゃくちゃ馬鹿にして見下されてんじゃねーか!見ろあのツラ!」  夕日に照らされてぬらりと赤く染まる魔子と亜子の顔は、私にはひどく恐ろしいものに映った。リヒトとじゃれ合った時間が楽しかったから、そのギャップもあるのかもしれない。二人は赤黒い顔で、私の方を見ながら何か嫌なことをクスクス話している。実際に何を言っているのか聞こえる訳ではないが、いつも教室で一緒にいる私には嫌でも分かる。いや、本当は分かりたくないけど、そこまで私はポジティブにはなれなかった。 「オレが噛みついてやろうか」  リヒトが眉間に皺を寄せ、鋭くとがる犬歯を剥き出した。 「やめて!そんなこと絶対にしちゃ駄目!」  私は必死で未だ歯をむき出すリヒトに懇願した。もちろん彼の為でもある。飼い主以外の他人を噛んでしまった犬の末路をよく知っているからだ。けれど、八割方は自分の為でもあった。負け犬ポチは、とにかく自分より強い者に牙を剥きたくはなかったのだ。  私に尻尾が生えていたなら、今は下がりに下がりまくって股の間にくるりと収納されていたことだろう。
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