第四章 目覚めとパグとブルドッッグ

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 犬は、ときに人間以上に相手の感情に敏感だと聞いたことがある。言葉が通じないぶん、誤魔化しが通じないからかもしれない。 「でも、オレはその人たちと仲良くなりたかった。家族の中でオレだけ仲間外れなんて嫌だったんだ。だから、必死に尻尾を振ったり愛嬌を振りまいたり、ガキなりに好かれようとする努力はしたさ。でも、途中で気づいた。別にオレだけ仲間外れなんてことは無かった。たぶん、家族の誰も仲は良くなかった。みんな、一人ぼっちだった。大きな家に住んで、美味い飯も食わせてくれたけど、たぶん誰も幸せじゃなかったんだ」  リヒトの耳はペタンと下がり、尾は力なく垂れていた。 「恐らくオレは、その家族の子どもの遊び相手として連れてこられたんだと思う」  子どもの情操教育として犬を飼う家庭も少なくないと聞いたことがある。おそらく、リヒトはそのために迎えられたのだろう。 「でも、もちろんソイツもオレのことなんて好きじゃなかった。だから、家族の誰もオレのことなんて興味なかったのかもしれないな」  いわば子どもの道徳の教材としてリヒトを買ったその人たちは、彼本人のことなんてどうでも良かったのかもしれない。絶対に許せないけれど。 「その子どもっていうのはな、母親や父親の前ではニコニコしてるんだよ。でもオレの前では違った。いや、両親がいるときはオレの前でもニコニコしてた。でもその人たちがいなくなると、途端に不機嫌な顔になってオレのことを小突いたり、腹を蹴ったりするんだ」  私はリヒトが理不尽な暴力を受けるさまを想像し、吐き気と共にその飼い主に噛みついてやりたいと思った。
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