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「で、俺はどこに行けばいい? つーかクラスメイトって言ったな。誰だ?」
「緑木くんは一つ失念してることがあるわ。あなたが断りに行くと、私と恋仲にあると勘違いされるかもしれない」
緑木くんは、何を言っている、と言うように眉を歪めた。こういうところで鈍いのか。
「あぁ、なるほどな。まぁ、俺はいいが、そうか。お前は嫌か」
何気なく言う彼に、心はズキリと痛んだ。
緑木くんは気にしないのか。私と付き合ってると勘違いされることを。
そんなに、無頓着なのか。
私に。
「緑木くんが平気なら、行ってほしい」
「………わかった。で、どこだ?」
「特別棟の空き教室よ。行けばいると思う」
それから何てこともなく、緑木くんは五分程度で帰ってきた。
申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、「俺って怖いのか?」という緑木くんの鈍感さで、少し笑うことができた。
緑木くん、あなたはすごく怖い。見た目はね。
でも、それは私だけが知ってればいいの。
そしたら私は、優しいあなたを独り占めできるから。
翌日の放課後。
「青葉、話がある」
「なにかしら」
「告白された。昨日のお前と似ている。場所もシチュエーションも同じだ。俺にお返しするときがきたな」
昨晩、私はあることに気付いた。
緑木くんは無頓着だ。ならば、それを利用すればいい。
私と緑木くんが付き合ってると噂が流れれば、余計な女が寄ってこない。外堀を埋めるという意味では、むしろありがたい。
「ええ。もちろん、協力してあげる」
彼は先ほど、『お返し』と言った。
私は、心のなかで明確に否定する。これは『仕返し』だ。私に興味がないことへの。
いつから、こんなにも独占欲の強い人間になったのだろうか。でもこの欲に対してはポジティブである。悪いことだとは思っていない。
「緑木くん、後悔するといいわ」
「あ? 急にどうした」
「私の『仕返し』は、いつか必ず実を結ぶ」
私は勝利を確信し、空き教室へ足を進めた。
意外と鈍い緑木くんのことだ。私の背中を、ポカンと口を開けて見ているだろう。
「仕返し、ねぇ」
教室に残された緑木が、ポツリと呟く。
「だからそれは、『お返し』でいいんだよ」
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