chapter.1
全1/17エピソード・完結
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chapter.1

 僕は、見知らぬ部屋で目を覚ました。その部屋は、病室のように、白く清潔だった。しかし白く清潔というだけで、ここは病室ではなかった。この部屋には、安いビジネスホテルにあるようなベッドが八つ、整然と並べられていた。縦に四つ、横に二つ。部屋は正方形に近い。  そのベッドの一つ一つに、様々な人間が寝かされていた。痩せこけた老人、若く美しい女、大学生くらいの男、太った中年男性、ハンサムな男、三十代と思しき女、年齢不詳の女。誰もが童話の姫(あるいは王子)のように眠っている。  僕はベッドに腰を下ろした。それから上を見た。真っ白な天井。妙に高い。  時計。観葉植物。誰が書いたか分からない抽象画×3。それが、この部屋にあるベッド以外の全てだった。  隣で、身動きの気配があった。見ると、年齢不詳の女が、身体を起こすところだった。 「おはようございます」 「は?」  女は怪訝そうな顔をした。「あなた、誰」  それで僕は、彼女が若いのではなくそれなりに年齢を重ねていることを理解した。怪訝そうな顔をした彼女の、その顔に刻まれたしわが、全てを物語っている。化粧が濃いから、厚化粧の二十代なのか、三十代なのか、四十代なのか、それが分からなかった。彼女がカエル顔の童顔・・であるというのも、年齢不詳に見えた理由の一つだった。しかし今なら分かる。彼女は四十代だ。 「ニートです」 「ニート?」 「はい」  彼女は目を逸らした。それはそれで心苦しい反応だった。 「長谷部俊介と言います。よろしくお願いします」 「武藤です。よろしく」  彼女は警戒しているようだった。その証拠に下の名前を名乗らない。しかし、どうせやるなら僕のように偽名を使うべきだった。もちろん彼女が偽名を使っている可能性も否定できないが。 「ここはどこです?」  武藤氏は、まるで僕に質問すれば全てを答えてくれるとでも思っているみたいだった。 「分かりません。僕も、目覚めたらここにいたから」  正確には、僕は家にいて、そして目覚めたら、ここにいた。 「誘拐?」 「かもしれません」
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