chapter.5
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chapter.5

 部屋の空気は、最悪だった。淵川さんも、勝俣さんも、武藤氏も、菅野も、皆が皆、恐怖と軽蔑を浮かべた瞳で飯田を見ている。渡辺の死体は、森祥子の時のように、床の取り換えによって迅速に処理された。血だまりだけが、死体のあったことを証明するように、残っている。 「ひ、人殺し」  菅野が、震えた声で言った。唇が、微かに痙攣している。  飯田は、返り血を気にする様子もなく、ナイフを持ったまま、突っ立っている。 「心は痛まないの?」  武藤氏が金切り声に近い声を上げる。 「同じ状況なら、お前らだってそうするだろ」  飯田は、菅野、武藤氏の順番で睨みつける。瞳孔が開いている。 「俺は、こんなところで死にたくないんだよ」 「犠牲の上で成り立つ人生の、どこがいいんだ」  勝俣さんが言った。「私なら、大人しく死を選ぶ」 「戸崎。お前はどうなんだよ」 「え?」 「お前は、自分のために他人を犠牲にするか? それでも、自分が死ぬか?」  飯田は、どうして僕に尋ねるのだろう。  沈黙が落ちる。僕は、もし僕が飯田の立場ならどうしているか、ちゃんと考えようとした。けれど、上手くいかなかった。 「おい、お前、飯田を擁護するのかよ」  菅野が言う。 「そういうわけじゃない」 「じゃあ、なんで黙ってる」  淵川さんが口を挟んだ。  僕は、こういう時、間違いなく「僕は自分を犠牲にする」と言うべき・・・・であることを知っていた。  にもかかわらず、僕の出した答えは、こうだった。 「……分からない」 「なによ、それ」  武藤氏が明らかに非難している。 「お前、殺人野郎と同じってことかよ」  菅野も攻撃的だった。 「いや、別に戸崎くんは同意しているわけじゃない」  勝俣さんが、とりなすように言ってくれる。しかし、そこにはどこか、異質な者へと向けられるような、そういう冷たさがあった。あるいは、落胆とでも言うべきものが。 『そこまでにしてください。とりあえず、次のゲームを始めましょう。それでは、ゲームスタート』  声は、僕たちのことを完全に無視し、ゲームを進行させた。まるで、僕たちのやり取りが退屈だと言いたいみたいだった。
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