還らない、波

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 そして僕を包み込む肉感は、未だ嘗て味わった事の無いもので、僕はそのあまりの快感に情けなく腰を揺らし始めた。それに触発されるように、彼は熱い吐息を吐き出す。 「もっと、深く────」  切迫した喘ぎに引き摺られるように、僕は必死で彼の身体を突き上げた。ずんと言う重い衝撃が肉と肉、骨と骨を伝い響く度に、彼は狂ったように声を上げる。それはやはり女よりも数段と低く掠れているのに、どうしてかじっとりと濡れて僕を燃え上がらせた。  彼は不思議な魅力を持っていたのだと思う。微かに匂う高飛車な性質は、元来大人しい筈の僕の嗜虐心を大いに煽った。もっと、別の声で泣かせてみたいだとか、もっと乱してみたいだとか。彼の身体を貪る内に、僕の中で目を覚ました本能は、抑えきれぬものへと変わって行った。  気付けば僕は、僕に跨っていた筈の彼を壁に追いやっていた。押さえ付けた身体はしなやかに湾曲し、ねだるように小ぶりの尻朶を揺らして僕を何処迄も誘惑してくれる。僕は最早自我を忘れ、彼の頸筋に噛み付いた。腰は絶えず激しく彼を陵辱し、空いた手さえも勃ち上がった胸の飾りを弄ぶ。腰の打ち付けとは別のリズムを持って痛い程に抓り上げてやれば、彼は恍惚の表情で高く啼いた。  彼が求めれば、僕は更に奥深くを抉る。突き上げる度に肉壁は僕を逃すまいと絡み付き、絶頂へと導いてくれた。  彼が求めているものは、壊れる程の快楽である。僕が求めていたものは、限りない普遍性を破壊する出来事。  塞がらなくなった唇の端からは、溢れ出た涎が糸を引いて落ちてゆく。僕はそれさえも逃すのが惜しくて、彼の口腔に舌をねじ込み、止め処無く流れる唾液を全て舐め取った。数も数えられない位、僕は彼を犯し続けた。吐精する度に勢い良く溢れ出す精液で、彼の太腿は雨に降られたように、淫靡な白濁で濡れそぼっている。それすらも僕を興奮状態に陥れ、絶倫状態は明け方迄続いた。  それは正に、快楽に侵された、仮初めの天国であった。
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