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「あの、どうして」
困り果てた僕が助けを求め問掛けると、彼は何故か可笑しそうに笑った。余りにも、無邪気に。
「貴方が誘ったんじゃないですか。僕を、抱いてみたいと」
そんな筈は無いと言うより前に、彼は着ていた浴衣をするりと脱ぎ捨てた。そして僕は、その余りの衝撃に言葉を失ってしまったのだ。
骨が皮を被っているだけだと思っていた彼の裸体は、まるで生身の芸術のようであった。やはり、細い。美しい骨格が手に取るように分かる程だ。けれどその細い躯は、確かに隆々と流れる薄い筋肉に覆われていた。
その時ばかり、意地の悪い夏の虫が揃って鳴くのを止めたお陰で、僕がごくりと呑み込んだ生唾が喉に落ちる音だけが妙に生々しく鼓膜に響く。彼は相変わらず妖艶に微笑みながら、呆然とする僕の手をそっと握った。
「触って良いんですよ。尤も、貴方の元恋人のように、触り心地は良くないと思いますが」
確かに僕の恋人は少し豊満な肉体をしていた。彼とは似ても似付かない。だがそんな事まで、僕は話したのだろうか。
無駄な事を考えているうちに、操られた僕の掌に薄い皮膚の感触が伝わり、思わず背筋が粟立つ不快感が小さな震えとなり全身を駆け巡っていった。
「ダメです、こんな────」
慌てて振り払おうとした腕はより強く僕を引き寄せ、触れる程近くで、彼は薄い唇を動かせる。
「貴方は酔っている。それで良いじゃありませんか」
頬に触れる熱く火照った吐息が、僕の身体に残った酒を余計に回した。
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