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彼は徐に僕の下から這い出ると、再びあの投げやりな態度で小さく笑って見せた。
「僕は根っからの、ヘドニストなんです」
その言葉は、僕の胸の何処か、しっくりとする所があった。快楽主義者。だから彼はこんな見ず知らずの男をも、喜んで導こうとしたのかと。
僕がそんな事に気を取られている目の前で、彼は細い帯で辛うじて下半身を隠していた浴衣の裾を左右に割ると、何を思ったのか大きく膝を割った。僕の前には、否応無しに彼の陰部が晒される。月光が薄い上に、彼が影となり翳ってはいるが、艶かしいその姿は、余計にいらぬ神経を刺激した。
彼は既に反り勃った己の陰茎をゆっくりと扱きながら、恍惚表情で僕の誘惑を始めた。
「僕を抱いた男達は皆言いますよ。天国を見た気分だと。貴方も、味ってみてはどうです」
やっとの思いで飲み下した唾液は、大袈裟に啼いて落ちた。尖端から溢れ出た蜜を指先に塗りたくり、彼の細指が、物欲しげにひくつく秘孔にゆっくりと沈んでゆく。小さな水音を立て細い指を呑み込んで、細かい襞がまるで生き物のように絡み付く様までもが、鮮明に捉える事が出来る。酷薄な唇は、視線を縫い付けられた僕を唯々嘲笑った。
「ようこそ、春彦さん。今宵限り、仮初めの天国へ」
聞いてはいけない、悪魔の囁き。見てはならない、色欲の奴隷が魅せる真紅の誘惑。僕の脳に再び酔いが回り、引いた筈の熱はより激しく滾っていった。
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