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僕がそんな風に彼の外面を観察している内に、肉が削ぎ落とされたような痩けた頬を弛ませて彼は続けた。
「言い方を変えようか。俺は君とは別の人種だ」
「……と、言うと」
漸く僕が返答した事が嬉しかったのか、彼は大きな身振りで答弁を始めた。
「君はどうせ外面からは見えない何処かしら自分の持つ不具を恥じているのだろうね。それを心から憎んでもいる。それは君にとって、君の内面に大きく落ちた一点の滲に他ならないのだからね。何を驚いているんだ。君もそうだろうが、俺もそう言う事には敏感だからね、分かるんだよ。だが俺はね、君。不具である事をこの上無く気に入っているんだ。君のように、いじけて世をひねるなんて事はしていないんだよ。分かるかい。だから俺に求めるのは無駄だよ。罪の共有か、他者の目に怯え、生涯癒える事の無い傷を撫で合いたいのかは知らないけれどね」
僕は彼のあまりにも悠然とした物言いに、息継ぎをする事も忘れていた。そしてその言葉の意味を全く理解する前に、彼は畳み掛けるように再びせせら笑った。
「しかしまあ、名前だけは聞いておいてやろうか。俺も美しいものは分け隔てなく好きだからね」
彼はそう言い捨てると、僕が衝撃のあまり言葉も出ない事を知っていたのか、答えも聞かず勝ち誇ったように踵を返した。
そのまま教室を出て行こうと歩みを始めたその姿はやはり酷く不恰好で、折角僕の心を掴んだ美しい後姿は、畦道を急ぐ蛙のような歩き方により忽ち消え失せた。
僕の心は否が応にも打ち震えた。何故何も知らないあの青年に、それも初対面で僕はこうまでも触れられたくない部分を傷付けられなければならないのか。確かに僕はしたたかな気持ちで彼に近付いた。だがそれは彼に悟られる筈は無かったのだ。そしてどうして彼は不具者でありながら、何者よりも上から物事を見ているのだろうか。それが何よりも気に入らなかった。
彼が教室から消え、程なくして校庭に姿を表した途端、僕の心に燻っていた感情は、確かな怒りとなった。
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