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僕が夢見心地で立てたその予想が外れだったと知ったのは、浅い眠りの中に轟いた雷鳴のお陰だった。薄ら瞼を開くと、水平線から産まれた真夏の早い積乱雲が空を丸ごと覆っている。何かが起こると予感させるには十分な空模様に僕の胸は踊った。僕は常々年相応の夢見がちな精神を忘れてはならないと感じていたから、その感覚はとても心地が良いものだった。
けれど何時も現実は僕に突き付ける。どれ程に努力を重ねたとしても、僕は拭い去れぬ暗を抱き生きている事を。
隣で眠っていた彼もまた雷鳴に目を覚まし、慌てふためいた様子で僕の髪を撫でた。
「いけない。漣、もうこんな時間だ。早くお帰り。学校に遅刻してしまうよ。ああ……空が真黒だ、一雨きそうだね。傘を出しておこう。持って行くだろう」
彼は矢継ぎ早に言いたい事だけ言うと、昨夜乱暴に脱ぎ捨てた上着を羽織り、答えも待たずいそいそと部屋を後にした。彼は僕の遅刻の心配など微塵もしてはいない。彼は唯、旅行に出ていた妻の帰還を畏れているのだ。朝一番の船で着くと言っていたから、早くて後一時間。焦るのも無理は無い。僕の目的は彼を手に入れる事ではないのだから、それは全くどうでもいい事ではあるのだけれど。
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