前編

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 僕の両親は早くに揃って事故で死に、今は遠い親戚の家に厄介になっている。金田と言う姓は、その親戚のものだ。そう言う事情により来年度には働かなければならないのだけど、いまいち僕の意欲は上がっては来ず、こうして日々風に抱かれ生きる事しか出来ぬ波のような生活を送っている。と言うのも、元々僕は大学への進学を希望していた。しかし彼等が僕を金食い虫と呼んで酷く虐めるものだから、進学は諦めざるを得なかったのだ。  初めに言っておくが、僕は普通の学生では無い。普通ではない証拠に、僕は金に不自由した事が無い。戦後の混乱を経て爆発的な繁栄を迎えた近年ではそう珍しいものではないのかも知れないけれど、それにしても僕は異常だった。言ってみれば飢えた事が無い。絶えず何かを口に含んでいるような状態で、周りの同級生が常に何事か飢えているその脇で、何時も薄ら笑いを浮かべていた。勿論、そんな事は一切他人は気付かないし、気付かれてはならない。僕は明るく社交的な学生で、生徒からも教員からも受けの良い優等生であるから。  ならば何故自分の金で大学へ行かないのかと人は憤るだろう。それには大きな理由がある。  まず第一に、僕が稼いだ金は全て、僕が持って生まれた美に陶酔した愛人達が寄越したものなのだ。先のピアノの教師もその内の一人。持て余した大金の浪費にと、暇潰しに習い始めたのがきっかけだった。今ではこんな風に、旅行好きの夫人がいない間は鍵盤に一つも触れる事無く、僕達はベッドの中で快楽のレッスンに明け暮れる。ただでさえ不貞を働いているにも関わらず、それに輪をかけて僕は同性愛者であったから、その事実は例え死と引き換えにしても隠し通さねばならなかった。
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