『祝言』

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『祝言』

朝靄に紛れる雪と雄蔵と泰宗。朝が早いだけに人の気配は少ない。 昨夜の騒ぎが嘘かのようだが、雪も雄蔵も泰宗も着物は血で汚れている。 誰もが口をつぐむ。雄蔵には雪の気持ちが何とはなしに読めてしまう。 津上屋の大旦那を討ったが、人質たちの行方はまだ知れない。それを気にしてのことだろう。 ざっざっと響く三人の足音。それが一時止まる。 目の前から近付いて来る人の影。雪はつい声をあげた。 「三吉!」 人質として連れ去られた子供の一人。雪と雄蔵に米を分けてくれた子。 「雪様ーー!」 三吉は三人の前に笑顔で止まる。 「雪様!俺、助かった!」 雪はつい三吉の体を抱き締めた。 「良かった……。本当に良かった……」 「へへ。ももたろうさんが助けに来てくれたんだ!津上屋はもうなくなったからってさ。雄蔵もありがとうな!それに言いに来たんだよ」 そう言い放ち三吉は、来た道をまた駆けて行くが、一瞬止まり、雪たちを振り返る。 「雪様!雄蔵!米はまたあげるからな!じゃあな!」 三吉は朝靄の中へ消えていく。 「はは。ももたろうさんは強いだけじゃあないんだな」 雄蔵がそう呟くと雪も頷く。 泰宗はもともと分かっていたのか、穏やかに笑顔を称えたまま黙っていた。 三人は再び朝靄の中を歩き、泰宗の館へと辿り着く。 「雪様!父上!雄蔵!」 屋敷の前では宗道が一人立っていた。 「宗道、全て終わった。津上屋の大旦那は討った」 雄蔵の声に宗道は、雄蔵の肩を抱く。 「流石だ。いきなり居なくなるから気が気ではなかった。こちらの用心棒も皆、討った。安心しろ」 「宗道こそな」 短い時間で雄蔵と宗道は変えがたい友情を築いた。 「羨ましいな」 つい雪が漏らした。男だからこそ築ける友情だと思うから。
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