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「さて宗道、雪様と雄蔵の祝言をしばらくしたらあげるが異存はないか?」
間を割るように泰宗の声が響く。
「ありません。雄蔵なら雪様を安心して任せられます」
穏やかな宗道の声。泰宗も深く頷く。
「では派手に行こうかな」
それより一月。雪は領主として忙しく暮らしていた。女であるために泰宗と雄蔵は常に付き添い補佐をしていたが、雄蔵が名君と認めた広臣の娘は、その血を遺憾なく発揮していた。
広臣が進めていた灌漑を進め、津上屋の件で民衆が荒れたために年貢を少なくしたりと常に民と寄り添っていた。
また雪の見た目と優しさと幼さは人々を癒す。だからこそ、いつも一緒にいる雄蔵に軽口も飛ぶ。
「雄蔵ー!いつ祝言あげんだ?この唐変木が!」
そんな言葉をかけられると雄蔵も苦笑するしかない。
「うるせーよ。暇がないんだよ!暇が!」
農民とも当たり前のように話す雄蔵。そんな雄蔵を雪は誇らしく思う。
「気にするな。私の旦那は生涯、雄蔵しかいないからな」
雪はそう言ったが当人たちより周りが気にしていたらしく祝言はすぐに実現した。
仲人は泰宗であり、祝言の場所は三吉のいる村だった。屋外であったために多くの人たちが見学に訪れた。
白無垢の雪の横に紋付き袴の雄蔵がいたが、やはり正装は肩が凝るのか雄蔵はそわそわとしていた。
「雪様、綺麗~」
「雄蔵、馬子にも衣装だな」
家臣も民も酒を煽って好き勝手口にするが二人は嫌ではない。
泰宗が段取りを進めていくが、ある程度経ってから雄蔵の横につき、そっと耳打ちをする。
「雄蔵、肩が凝るだろう?一つ、新郎のお前が余興をしないか?」
「何をするんだ?」
つい聞き返す雄蔵。
泰宗の続きの言葉を聞いて、つい雪が笑みを漏らす。
「そっちの方が雄蔵らしい。私も見てみたい」
「じゃぁ、一丁やるか」
雄蔵の言葉を聞いてから泰宗が皆に向かって声を張り上げる。
「皆の者!新郎が余興を見せてくれる!この雪様の旦那立花雄蔵は剣の腕に覚えのあるものだ!その腕を見せてくれるぞ!」
「ならば私が確かめましょう!」
そう声をあげたのは宗道。
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