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「……怒ってない」
ポケットに両手を突っ込んで俺から目を逸らすと、腹に響く低音ボイスで続けた。
「相手が俺だとわかってたら、LINEを寄越すはずがない。おかしいと思った。納得した」
「え、あ」
そんなことはないとは言えずに、まごついていると、柴崎が踵を返した。
「昨日は楽しかった。それと、悪かった」
柴崎の背中が遠ざかっていく。なんだかその背中が小さく見えて、このまま行かせてはいけないと思った。慌てて立ち上がり、呼び止める。
「待って、柴崎さん」
柴崎は、足を止めたが振り返らない。
「なんで? なんで俺なの?」
どうして俺を好きになったのか。別に俺は何かに秀でているわけじゃないし、目立たない、普通の男のつもりだ。でももしかしたら、自分に何か光るものがあるのかと、ドキドキしながら訊いた。
「別に……。新入生で、好きな顔の奴がいるなって」
「それだけ? 車に轢かれそうになってる子犬を助けたのを見たとか、そういうのじゃなく?」
「轢かれそうな犬を助けたのか?」
「助けてないけど」
柴崎の肩が、ほんの少し揺れた。もしかしたら笑ったのかもしれないと思うと、ホッとした。
「あれ、待って、新入生って、去年前から好きなの? 俺のこと」
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