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柴崎が黙る。背を向けているからわからないが、どんな顔をしているのか、見たいと思った。
「柴崎さん、今日誕生日だよね」
ポケットからラッピングされた小さな紙袋を取り出した。
「おめでとうございます。これ、よかったら」
柴崎が肩越しに振り返った。困惑しているのがわかる。すごくゆっくりと体の向きを変え、ぎくしゃくと、距離を詰める。そして、両手で紙袋を受け取った。
「開けてみて」
硬直する柴崎を促すと、中身を取り出し、顔の前にぶら下げた。眉間に皺を寄せ、それを睨みつけたまま、黙りこくっている。
「ごめん、女子だと思ってたから」
昨日、あれからすぐに雑貨屋に走った。抱きしめられるくらいの大きさの、柴犬のぬいぐるみを探した。結局理想のものはなかったが、柴犬に見えないこともない、小さなキーホルダーを発見し、飛びついた。
柴崎琴音がこれを通学鞄につけてくれたら可愛いなと妄想でにやついていたが、それは叶わぬ夢となった。
「捨ててくれていいから」
「いや」
速攻で否定した。柴崎が大きな手のひらの中に、大切そうにキーホルダーを包み込む。
そして、嬉しそうに目尻を下げて、笑った。
「気に入った。ありがとう」
ぐ、と息を呑む。
可愛い。
なんてことだ。笑うと可愛い。
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