1.柴崎琴音

2/6
前へ
/23ページ
次へ
 俺とLINEをしたいとのたまった。  いいだろう。してやろうじゃないか。  スキップで帰宅し、制服のままでベッドに寝転ぶと、ポケットから紙切れを取り出した。ノートの切れ端だ。四つに折りたたまれたそれを開くと、頼りない筆圧の震えた文字で「sivainu0120」と書かれていた。 「しば、いぬ? 柴犬好きなの? え、何、可愛くない?」  顔がにやけた。IDだけですでに可愛い。  LINEを起動してID検索をすると、柴犬のアイコンの「柴」というアカウントが出てきた。間違いない。柴崎だ。震える手で、追加の文字をタップする。向こうに、俺が追加した通知が届いているだろうか。  トーク画面を開く。  こういうときは、俺から声をかけるべきだろうか。そりゃそうだ。善は急げ。 ──こんにちは  送信すると、すぐに既読がついた。うわー、と声を上げ、ベッドの上で仰向けになり、脚をばたつかせた。柴崎が、俺のこんにちはを読んだ。それだけでハッピーな気持ちになる。 「え、どうしよ、あ、名乗らないと」 ──さっき沢村からメモ預かって。三組の綾瀬です  送信。  既読はつく。それなのに、返事がない。  本当にこれは柴崎だろうかという焦りが芽生えた。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

654人が本棚に入れています
本棚に追加