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3.清算
悪夢だ。忘れたい。なかったことにしたい。でも現実で、沢村はそれを残酷に突きつけてくる。
「お前、柴崎さんがどんな人か知らないのか?」
休み時間のたびに俺のところに来て、ごちゃごちゃと喋っていく。
「知らん」
「一年のとき同じクラスだったんだけど、喧嘩で停学んなってダブったって。だから俺らの一個上なんだよ」
「知らん、知りたくない」
「でも付き合うんだろ?」
首を横に激しく振って精一杯拒絶したあとで、力尽き、机に突っ伏した。
「とにかく、詐欺師呼ばわりしたのは謝っとけよ。今は大人しいけど、あの人昔はめっちゃ凶暴だったらしいし。鬼とか狂犬とかあだ名ついてたって」
こんなことになったのは、もとを正せばお前のせいだろう。と言いたかったが、わかっている。ただの、俺の早とちりでこんな事態に発展したのだ。
となりのクラスの柴崎さん。
ざきとさき。濁るか濁らないか。
二組と四組。どちらも「となり」のクラス。
女だから「さん付け」で呼ぶのだという先入観もあったが、一歳上の同学年ならたとえ男でも「さん付け」にするのはわからないでもない。沢村は悪くない。
これは不幸な事故だ。誰が悪いという話でもない。
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