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沙良だ。
目の前で一緒にいる、幼い頃からずっと好きだった沙良だ。
狼がいい加減なヤツだったなら絶対に渡したりしなかった。
欲しくても届かなかった想いは燻ったまま。
吐き出してしまえたら良かった。
そしたらこんなに苦しい思いはしなかった。
「佑ちゃんは、自分がどんな表情して美鈴ちゃんを見てるのかわからないの?他の男子に告白されてた時だって嫌だったくせに!」
「違う!俺は沙良おまえがっ!」
ハッとした。
一生言うはずのない言葉だった。
言ってはいけないものだった。
一瞬、沙良の瞳が大きくなった。
「そうじゃない。美鈴が幸せになるならそれでいい。俺がしてやれるのはここまでだから」
終わったんだ。
美鈴の恋が叶ったんだ。
半年以上も掛けて本物の恋を手に入れた。これが嬉しくないわけがない。
「美鈴にも言っといて。想いが通じて良かったなって。俺はもう屋上へは行かない」
これでいい。
あの男と幸せになれるのだから。
美鈴と目が合うと頷いてその場を後にした━━━
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