Chapter1

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Chapter1

 色とりどりの鉱物を、彼は大きな炉の中に無造作に入れていった。炉の中は、溶けた鉱物が渦を巻いて、脈動している。いつもの手順を繰り返しながら、ヒイラギ・ウィンドワード・アルティスは、溜息をついた。 (こんなことをする為に、私は錬金術を学んだわけではないのだがな)  ここは戦場の陣地の奥の天幕の中である。彼は雇われの錬金術師であり、時には傷ついた兵士の医者にもなり、時には持ち前の技を駆使して戦う、数少ない『錬金術』に熟練した傭兵でもあった。 (やはり、戦場は嫌いだ)  彼は再び溜息をついた。今彼が、炉の前で造っているのは、『大地の子供』、要するに、戦場用のゴーレムである。もうこれで五体目。彼の疲労も限界に達しつつあった。 「俺も大分年季が入ってきたということか」  彼はもう、39歳。重々しく長いローブを幾重にも纏い、その間からは淡い金髪が長く垂れている。片方の手の甲には矢印の形にも似た薄い紋様が刺青のように刻まれていた。 (俗世を離れたどこかの森の奥にでも隠居して、今度こそ余生は優雅に暮らしたいものだ)  それが無理だ、と知りつつも、彼は最後の鉱物を投げ込んだ。そしてふと思う。 (俺には、妻も子供も友人も、家族もいない…………)  そういった存在を自分は一生持つまい、そしてそれを寂しいとは思うまいと、数年来心に決めていた事だったが、炉の炎を見てふとそんなことを考える。そして、彼は思わず溜息をついた。 (少し、眠るか)  手近な椅子を引っ張り寄せながら、彼は意思も心も持たない戦闘兵器が生まれるはずの炉の中を覗き込む。そして今は戦場で活躍しているはずの、自分の造った兵器達を思い出す。 (この一体で、最後にしよう)  彼は、指にはめていた指輪に目をやった。文様の入った石のついた、ごくありきたりの指輪である。ただ、錬金術師として初めて作った記念すべきものだった。彼は何気なくそれを指から外し、炉の中に無造作に放り込む。 (感傷などとは無縁で生きていたはずだ。やはり、歳だな………)
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