Chapter24

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 砂へと還っていくゴーレムが、豪雨に溶けて泥となっていく。その泥をあびながら、無効化の魔法を受けて動かないカザカミの脇に、そっと彼は膝をついた。カザカミの虚ろな金色の瞳に、ほんのわずかな光がゆれる。そして、呟く。 「私で、よかった」  それこそが、この男の手から生み出された自分の、本来の使命である。だが本当は、自分がいる限り、父であり、師であり、伴侶でもある、この世でひとりの存在に、傷ひとつ負わせたくはなかった。時代と、宿命のような何かが、きっとそれを許してはくれない、ということも理解してはいたが、自分の身体が砕けて最後の一粒になるまで、その『許されない何かに』抗ってみたかった。力及ばすこうして朽ちながら横たわっているのが、悲しく、悔しくはあっても、それが、この男ではなく、自分だということに、ほんの少しの安堵があった。 (滅びが、敗北にならないように)  だが、ただの石と土で出来た自分にそう決意させた言葉を教えてくれた男が、何故、横たわる自分を見てこのように悲しそうな顔をしているのだろうか。 「よかったんだ。だから、いいの」  ヒイラギの表情が歪む。胸元のひび割れの横に、同族からつけられた忌々しい爪痕が残っているのを見て、そっと彼は手を伸ばし、言葉を漏らす。 「…………すまない」  短時間では修復も出来ないほどに傷つけられた四肢と、雨に打たれて崩れていく胸の割れ目に、彼は視線を落とす。体中に付けられた爪痕が、生々しい。辱めを受けた後の娘のように、ただ力なく大地に横たわる自分の魂の片割れが、微かに首を振る。 「大丈夫」 「お前のそれは、やせ我慢だ」  雨に打たれ、不揃いに切り落とされた淡い金色の髪が顔に張り付いた。それを指で払いのけながら、 「お礼をしてこい、と言ったのはヤガラミか」  彼は聞く。闘技場の一角から、武器を手にした兵士達が躍り出てくる。 「うん」 「ライゼン達は到着したか」 「うん。大丈夫」 「そうか。大いに結構」  兵士達の手にする武器が擦れあう金属音と、泥がはねる足音が二人の耳元に届く。癒えきっていない両腕で、ヒイラギはカザカミの体を膝の上へと抱き寄せた。 「………帰りたいね。帰らなきゃ」 「ああ、そうだな」  槍を手にした兵士達に取り囲まれた二人が、ゆっくりと瞳を見交わした。 「……………カザカミ」
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