Chapter24

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 我侭も不平もこぼさずに、どんな時も自分の傍らにいてくれた『娘』が、子供のように涙を流す。ヒイラギがほんの一瞬、目を閉じる。そして、いつものように、目を細く開いて鷹揚に笑いながら、告げた。 「おやすみ」  槍が体を突き通す、鈍い音が響く。手が離れ、大地が開き、そして、涙を流し続ける『大地の娘』を包んで緩やかに閉じていった。満足げに彼は笑い、今度は背中越しに、ゆっくりと片手をあげる。裂けた手袋が地面に落ち、手の甲に、文様が浮かび上がった。 「…………愚か者達め」  紋章が、鈍く輝きだす。ヒイラギが、首だけを少し後ろに向けて、兵士達を、そしてその後ろに見える、魔法使いや錬金術師、そして、占星術師達を一瞥し、笑った。 「お前達は、勝利を殺した」  何故か自ら望んでこの王宮に来た「風の如き男」の真意を、やっとのことで理解した魔法使い達が、言葉を失って茫然と立ち尽くす。何本もの槍で刺し貫かれたまま、ヒイラギがゆらりと立ち上がり、天を仰ぐ。雨が、ゆっくりと上がっていき、そして、雷に撃ち抜かれた闘技場の半屋根が、音を立てて崩れ始める。それと同時に、槍に貫かれた錬金術師の体が、丸で風へ溶ける様に、ゆるやかに消えていった。
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