Chapter25

2/4
前へ
/108ページ
次へ
「え………」  驚いて目を開けると、手にしていた七色の石が二つに割れていた。ぎょっとして、思わずそれをまじまじと目にし、サライナは息を呑む。 「これは………」  砕けた七色の石から現れ出たのは何故か、婚儀用の指輪だった。  ユウガミラの町を、風が通り抜ける。ヤガラミが、剣を手にしたまま、空を見上げて目を細めた。 「我々の元に、あの風は帰ってこないかも知れませんね。将軍」  石の踵が石畳の上で少しユーモラスな足音を立てる音と、その隣を金の杖を微かに鳴らしながら静かに歩く二つの音は、既に町の日常のひとつでもあった。 「皆が、懐かしがっています」  ライゼンが、頷く。 「そうだろうな。あの二人は、どこにいっても、そうなのだろう。思い出だけを残して、去っていく」  門の上の見張り台で、二人が遠くに視線を投げる。 「カザカミ嬢は、ちゃんとお礼をしてあげたのでしょうか」 「お礼?」 「あなたの美しい人と、ヒイラギ殿が、以前に軽い『接触事故』をおこした、あれですよ」 「…………ああ、そのことか」  思わず、遠くに視線を投げてから、ライゼンは言う。 「告げるべきか、否か。俺はサライナに申し訳が立たない」  見張り台から、二人は町の広間へと降りていく。梯子から降りたライゼンが、驚いて足を止めた。足元に、風が小さく渦巻いている。 「………何だ?」  見ると、その風の中心に落ちていた小石が、穏やかに光り出す。思わず屈みこんで手を伸ばし、風の中からそれを拾い上げた彼が、目を見開いた。 「どうかなされたのですか、将軍?」  ヒサンゴの館でサライナが持っているはずの、七色の石と同じものだった。拾い上げた途端に、真っ二つに石が割れる。 「それは?」 「ああ………」  しばらく黙った後に、ライゼンが、少し複雑な笑みを浮かべて立ち上がり、その割れた石を握り締めると、笑い出した。 「だが、どうやら告げねばならないらしい。あの、お節介めが………」  その笑い声を乗せて、風が再び通り過ぎていった。  山間の集落の小さな住居で、古びた本を読んでいたアマミヤが、窓の外を見る。まだ歳若い少年達が、木材や石材を運ぶのを手伝っているのを目にして、彼女は呟いた。 「坊は、どうしておるのだろうか」  自分達一族だけでなく、外を走り回っている少年達をも、奴隷商人の手から救い出してくれた、自分の恩人の息子を思い出し、彼女は本をめくる手を止めた。
/108ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加