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「え………」
驚いて目を開けると、手にしていた七色の石が二つに割れていた。ぎょっとして、思わずそれをまじまじと目にし、サライナは息を呑む。
「これは………」
砕けた七色の石から現れ出たのは何故か、婚儀用の指輪だった。
ユウガミラの町を、風が通り抜ける。ヤガラミが、剣を手にしたまま、空を見上げて目を細めた。
「我々の元に、あの風は帰ってこないかも知れませんね。将軍」
石の踵が石畳の上で少しユーモラスな足音を立てる音と、その隣を金の杖を微かに鳴らしながら静かに歩く二つの音は、既に町の日常のひとつでもあった。
「皆が、懐かしがっています」
ライゼンが、頷く。
「そうだろうな。あの二人は、どこにいっても、そうなのだろう。思い出だけを残して、去っていく」
門の上の見張り台で、二人が遠くに視線を投げる。
「カザカミ嬢は、ちゃんとお礼をしてあげたのでしょうか」
「お礼?」
「あなたの美しい人と、ヒイラギ殿が、以前に軽い『接触事故』をおこした、あれですよ」
「…………ああ、そのことか」
思わず、遠くに視線を投げてから、ライゼンは言う。
「告げるべきか、否か。俺はサライナに申し訳が立たない」
見張り台から、二人は町の広間へと降りていく。梯子から降りたライゼンが、驚いて足を止めた。足元に、風が小さく渦巻いている。
「………何だ?」
見ると、その風の中心に落ちていた小石が、穏やかに光り出す。思わず屈みこんで手を伸ばし、風の中からそれを拾い上げた彼が、目を見開いた。
「どうかなされたのですか、将軍?」
ヒサンゴの館でサライナが持っているはずの、七色の石と同じものだった。拾い上げた途端に、真っ二つに石が割れる。
「それは?」
「ああ………」
しばらく黙った後に、ライゼンが、少し複雑な笑みを浮かべて立ち上がり、その割れた石を握り締めると、笑い出した。
「だが、どうやら告げねばならないらしい。あの、お節介めが………」
その笑い声を乗せて、風が再び通り過ぎていった。
山間の集落の小さな住居で、古びた本を読んでいたアマミヤが、窓の外を見る。まだ歳若い少年達が、木材や石材を運ぶのを手伝っているのを目にして、彼女は呟いた。
「坊は、どうしておるのだろうか」
自分達一族だけでなく、外を走り回っている少年達をも、奴隷商人の手から救い出してくれた、自分の恩人の息子を思い出し、彼女は本をめくる手を止めた。
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