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「錬金術師の護送には魔法使い数名の人手が必要だ。時間は稼げる。カザカミ、ライゼンに宜しく伝えておいてくれ」
「…………」
拳を握り締めてうつむく相棒の耳元で、
「ティウの片割れがこの場から離れれば、一時休戦には持ち込めるかもしれない」
ヒイラギが囁き、頭二つ分ほど高いカザカミの頬へと手を伸ばす。
「いい子で留守番していろ」
「………うん。わかった。………でも、絶対に帰ってきてよ。無茶は駄目だよ」
「お前は心配しすぎだ。ところで、その手は?」
カザカミが、まだ血糊が乾ききっていない手に気がついて、しょんぼりとうなだれる。
「そういえば、いつも戦を好かないお前が、ここ最近は先頭に立っていると聞いた。何かあったのか?」
カザカミが、門の向こう側に新設された、兵士達の墓標に視線を投げる。
「誰かが死ぬと、誰かが悲しむから、私が頑張ることにしたんだ」
「お前が?」
「同じ人間同士が戦うのって、私が思ってるより……よくわからないけど、ずっと辛いと思うから、だから私が行くの。町の皆が、出来るだけ悲しまないように」
ヒイラギが、目を少し見開いてカザカミを見つめる。
「それが、私の役目なのかなって思ったんだ」
「そうか」
そして、ヤガラミが、そんな二人を馬上から見つめ、魔法使い達も、意外そうな表情を隠せずに、息を詰めてこの様子を見る。
「………やはりお前は、俺の意思を超えたな」
ヒイラギが、口元に少し複雑な笑みを浮かべて、そっと目を細めてこのゴーレムを見る。
「そうだ。人が人を殺めるのは、この世で最も愚かな事だ。だが、お前がそれを肩代わりしようとする必要はない、我が愛し子よ。……お前は確かに戦の為に、この俺が生み出したただ一つの存在だが、『大地の豊穣』としてのお前の本質はやはり、人を殺めるのに向かない。………すまないな」
そして、長らく沈黙した後に、唐突に金の杖を抜いて、それを別の場所に軽く突き立てた。
『優しき四の元素の二、沸き出でよ』
地面から、清らかな水が流れ出す。そして、片手で先程、魔法使いが放った炎が未だ燻っている地面を指差し、もう片方の手で大地の砂をすくい上げて、
「三は炎、一は大地、そして四の風は俺の息だ。カザカミ、しゃがめ」
生まれて初めて留守番を任された、小さな子供の様な表情を隠しきれないカザカミを、目で促す。
「え、う、うん」
『一の大地、三の炎を纏いて我が手に収束せよ』
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