Chapter19

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「本当にそうだよね。ヒイラギさんってば………」 「錬金術……」  隣の青年が呟いた。 「あんなことが出来るなんて」  12人のうちでは最も年若い、『土』の魔法使いが溜息をつくのが聞こえる。 「気をつけろと言われていただろうが、馬鹿者め」 「ですが……いきなり封じられるとは思ってませんでした。すみません」  若い魔法使いが、自分の使う何の変哲もない金の杖を手にとって、首を傾げながら上の空で平謝りしているのを見て、ヒイラギは苦笑する。 「余裕だな、錬金術師」  魔法使い達のリーダー格らしい男が、そんな彼を見て鼻を鳴らす。 「否。どうせ余裕なのは宮殿に着くまでだ。だが、それまでは束の間の平和を満喫させてもらう。しっかりと俺を監視するがいい」  守り通してきたあの町を、12人もの魔法使い総出で蹂躙されたくはなかった。 (俺がこうして出向けば、魔法使いもこちらを見張らざるを得なくなる)  手に木製の枷をかけられたまま、彼はゆるやかに歩く。この枷の感覚が、思い出したくもない、若き日の記憶の数々を、脳裏に誘う。 「宮殿に着くまで?」 「『お望み』の内容はやはり黄金か。それとも、先日そちらの王に贈呈した、あの素敵な贈り物達に関するお咎めか」 「両方だ」 「大いに結構。確かリュウゼンの宮殿にはご大層な拷問部屋があると言う。素敵なお部屋に泊めて貰える様で、大いに結構」 「…………」  魔法使い12人の前で、平然と高慢な口を聞くこの壮年の錬金術師に、思わず先程の若い魔法使いが聞いた。 「なら、何故こうして………」 「俺の運命などそういうものだ。風は、留まれば澱む」  ヒイラギが目を細める。若い魔法使いだけが、そんな彼を真摯に見つめて、聞いた。 「あなたには、未来が見えるのですか」  ヒイラギが、振り返って笑う。 「否。見えていたら、このような戦などと関わずに生きていけただろう。俺に見えるものは少ない」  禅問答の様な答えを返す彼に、 「それは………」  思わず魔法使いが問い返そうとするが、 「アシナダ。口が過ぎるぞ」  他の魔法使いに睨まれて、慌てて首をひっこめた。そこに、馬車がやってくるのが見える。 「乗れ。我が君がお待ちだ」  馬車に乗り込む直前の一瞬、背中越しに、彼は元来た道を振り返る。 (戻れないだろう)  手袋の下の紋章が、久しぶりに痛む。 (何故、このような選択肢を俺は選んだのだろう)
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