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「本当にそうだよね。ヒイラギさんってば………」
「錬金術……」
隣の青年が呟いた。
「あんなことが出来るなんて」
12人のうちでは最も年若い、『土』の魔法使いが溜息をつくのが聞こえる。
「気をつけろと言われていただろうが、馬鹿者め」
「ですが……いきなり封じられるとは思ってませんでした。すみません」
若い魔法使いが、自分の使う何の変哲もない金の杖を手にとって、首を傾げながら上の空で平謝りしているのを見て、ヒイラギは苦笑する。
「余裕だな、錬金術師」
魔法使い達のリーダー格らしい男が、そんな彼を見て鼻を鳴らす。
「否。どうせ余裕なのは宮殿に着くまでだ。だが、それまでは束の間の平和を満喫させてもらう。しっかりと俺を監視するがいい」
守り通してきたあの町を、12人もの魔法使い総出で蹂躙されたくはなかった。
(俺がこうして出向けば、魔法使いもこちらを見張らざるを得なくなる)
手に木製の枷をかけられたまま、彼はゆるやかに歩く。この枷の感覚が、思い出したくもない、若き日の記憶の数々を、脳裏に誘う。
「宮殿に着くまで?」
「『お望み』の内容はやはり黄金か。それとも、先日そちらの王に贈呈した、あの素敵な贈り物達に関するお咎めか」
「両方だ」
「大いに結構。確かリュウゼンの宮殿にはご大層な拷問部屋があると言う。素敵なお部屋に泊めて貰える様で、大いに結構」
「…………」
魔法使い12人の前で、平然と高慢な口を聞くこの壮年の錬金術師に、思わず先程の若い魔法使いが聞いた。
「なら、何故こうして………」
「俺の運命などそういうものだ。風は、留まれば澱む」
ヒイラギが目を細める。若い魔法使いだけが、そんな彼を真摯に見つめて、聞いた。
「あなたには、未来が見えるのですか」
ヒイラギが、振り返って笑う。
「否。見えていたら、このような戦などと関わずに生きていけただろう。俺に見えるものは少ない」
禅問答の様な答えを返す彼に、
「それは………」
思わず魔法使いが問い返そうとするが、
「アシナダ。口が過ぎるぞ」
他の魔法使いに睨まれて、慌てて首をひっこめた。そこに、馬車がやってくるのが見える。
「乗れ。我が君がお待ちだ」
馬車に乗り込む直前の一瞬、背中越しに、彼は元来た道を振り返る。
(戻れないだろう)
手袋の下の紋章が、久しぶりに痛む。
(何故、このような選択肢を俺は選んだのだろう)
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